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火のついたタバコ
【不思議なプチストーリー・16】 〜望まれた“同化”〜
タバコは、灰皿の下にたまっている吸殻を見下ろしていた。
「まるで焼け野原のようだな。」
と、タバコはつぶやいた。
タバコは、自分の言葉におどろいた。
タバコは、“焼け野原”なんて見たこともなかったし、知りもしなかったからだ。
それは、人間の口から出た言葉だった。
タバコは、今、人間の口に吸われている最中だった。
「自分は、人間と同化しているのか…?」
少しの恐怖と嫌悪感、そして、好奇心が入り混じった心で、タバコはそんなことを思った。
タバコは、「人間は、煙を吸いたいと願っている。願われたから、自分は人間と同化しているのだ。」と気付いた。
タバコが人間と同化していると、体がじりじりと燃えた。
燃えて、燃え尽きて、灰になった。
タバコは灰になり、灰皿の“焼け野原”と同化した。
だが、タバコの心は、煙となり、空気と同化した。
人間の呼吸で起きる、わずかな空気の動きでも、空気になったタバコの体は少し引き裂かれた。
空気になったタバコは、氷の入ったグラスにもぐりこみ、涼んだ。
グラスには、わずかに残ったウイスキーと氷しか入っていなかった。
「やあ、ようこそ。」…とつぶやくように、グラスの中で、氷はカランと乾いた音をたてた。
空気になったタバコは、黙ったまま氷をつつみこみ、抱き込んで、“ひんやり”と同化した。
空気になったタバコと氷は、冷たく静かな2人だけの世界にひたった。
空気になったタバコは、「せめて、氷が溶けて消えてしまうまでは、あの風通しのいい窓を開けないでくれ。」と願い、この願いが、人間と同化してくれることを祈った。

